世界を幸せにする “美食 Kanazawa Dream” が、 マテオとシルビアの小さな料理店から始まろうとしている。【1】
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1-1 ♦ introduction
イタリア・リエティに生まれ育った二人の「夢」。
リエティ(Rieti)は、イタリア中西部の丘陵地帯に開けた美しい町。
地理的に “イタリアのへそ“ とも呼ばれるこの町の歴史はたいへん古く、丘の斜面を占める旧市街はローマ時代に建設され 13世紀に修復された城郭で囲まれています。人口は約4万7千人。首都ローマからの距離は、およそ80km。
ちなみにリエティ市と日本の静岡県伊東市とは、類似する川下りレース(リエティでは「ワイン樽乗りレース」、伊東市では「タライ乗りレース」)が、歴史ある郷土のお祭りとして現在に受け継がれているという面白い縁があり、友好都市協定が結ばれています。
今回ご紹介する【kanazawa biiki project CASA】の主役である二人(Matteo Alberti と Silvia Nucci)は、ともにこの町 リエティに生まれ育った幼なじみであり、また、お互いを最も信頼し尊敬する人生の伴侶であり、そして着実な歩みで一つの大きな夢を追いかけてきたビジネスパートナー。二人をシンプルに言い表すならば「Twin Seoul=ふたごの魂」という言葉がぴったりかも知れません。
そんな二人、マテオとシルビアの夢は、「世界のどこかに自分たちのレストランを開き、正真正銘のイタリアの味わいとおもてなしを提供して、『CASA=家族』といえるような心の交流を創り育てること」。世界のどこか・・自分たちの探し求める理想の場所に「CASA」を創りたいというその夢は、国境や欧州という地域の枠を超えて冒険に旅立つ、人生のロマンそのものでした。
「人生は一度、それは “奇跡“を体験するための素晴らしい機会なんだ」。
そんなふうに語るマテオ、そして彼を見つめるシルビアの瞳は共にキラキラと輝いて、未知に挑む好奇心、人生を深く愛する純粋なエネルギーに満ち溢れているように感じられました。
二人のホームタウン、イタリア・リエティにて。
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1-2 ♦ Adventure to a dream
さて、いよいよ夢の実現に向かう「世界冒険」へ。
じっくりと将来の夢を温めながら、ヨーロッパ最大の都市・ロンドンを拠点に、マテオは一流の料理人としての腕に磨きをかけ、シルビアはプロフェッショナルな接客サービス、ホスピタリティを深く習得していましたが・・二人はそれまでに積み上げてきたキャリア(*profile 参照)にいったんピリオドを打ち、約7ヵ月間に及ぶ「世界冒険」に旅立つことを決意します。
2016年8月末からスタートしたこの旅の目的はもちろん、自分たちのレストランを世界のどこかに創るためのインスピレーションを得ること。それまでの日常を離れ、とくに母国語はもちろん英語が通じる環境からも離れて、歴史も文化も人々の生活習慣も大きく異なる、東南アジア各国や日本の各都市をめぐることは、もともとアーティスティックな素養のある二人の感性を大きく開放することにつながり、新鮮で心ときめく日々であったようです。
旅の行程は、東南アジア各国(ネパール12日間、タイ27日間、ミャンマー21日間、ラオス24日間、ベトナム38日間、カンボジア13日間)とつづき、ニュージーランド21日間を経て、日本の各都市をめぐる53日間で締めくくられており、二人はこの旅の印象を詳細なレポートに残しています。
そのなかでとても興味深いのは、日本の各都市の印象を記録している部分。彼らは「もしもこの街で開業するなら」という想定のもとに具体的なレポートを書いています。日程順に一部を抜粋しますと・・
- 大阪
大阪にはイタリア人の親友が長年暮らしていて、彼の案内で「ディープな大阪」を体験できた。とてもオープンマインドな面白い人々が暮らす街で、活気のあるビジネス環境も整っており、適度な外国人コミュニティも存在する。しかしながらイタリア料理店の競合が激しく、家賃や物価も高め。街の印象は、良くも悪くもカオスである。
- 松山
日本の農村部の精神性と食文化、ライフスタイルを理解するために四国・松山に行き、2週間のボランティア活動にも参加した。親切な人々に囲まれてベーシックな日本語の習得にも役立った。静かに暮らすには素晴らしい環境であるが、観光客が少なく、街のサイズや外国人コミュニティも小さく、我々の目指すレストラン開業には適していない。
- 京都
奥深い歴史文化を持ち、外国人観光客にもたいへん人気のある京都にはもちろん注目していた。イタリアレストランの競合は激しいものの、ビジネスの可能性は大きく、しっかりとした外国人コミュニティも存在する。しかしながら、店舗家賃や生活コストがとても高く、場所によっては騒々しいのが気になった。
- 金沢
歴史的で本物の美しい文化を継承する金沢は、町のサイズもちょうど良くコンパクトで、観光客にも人気があり、適度な外国人コミュニティも存在している。大都市に比べて少しばかり活気には欠けるものの、逆にそれは落ち着いた情緒を感じる金沢の魅力にもなっている。何人かの日本人の友人が住んでいることも心強い。
- 高山
高山では伝統的な旅館と酒蔵、和牛レストランを経営する古い友人に再会し、日本の生活様式やビジネスの展望について意見交換することができた。壮大な山の自然と温泉を求めて観光客も多く訪れ、イタリアレストランの競合も少なくチャンスは感じるが、町の規模そのものは非常に小さい。
- 伊東
我々のホームタウンであるリエティと静岡県伊東市は姉妹都市である。自然豊かな美しい町であり、富士山のビューポイントも点在するが観光地としてポピュラーとは言えない。東京からのアクセスも悪くないが、ビジネスの可能性はあまり感じない。町の規模も外国人のコミュニティもベリースモールサイズ。
- 東京
日本の首都・東京は、我々としてもじっくり見ておきたい魅力的な世界都市だった。多文化が融合する巨大な町は、もちろんレストランビジネスの可能性にも満ちており、充実した活気ある外国人コミュニティも存在する。しかしながら、市街地のムードはあまりにも混沌としていてストレスを感じた。
二人は日本の各都市を肌で感じ、とくに金沢の街には好印象を感じていましたが、最初の旅行中のこの段階では「まさか本当に金沢に移住・開業することになる」とは思いもよらず・・まだ、一片の現実味さえも生まれていなかったようです。
それでも・・マテオとシルビアには帰国後も忘れない、金沢での「ある出会い」があり、未来に向かうささやかな予感がいつまでも心を離れませんでした。
それは金沢滞在中、目についた古民家物件を興味深く見ていた時に、ごく自然に会話を交わすことになったある男性との印象深い出会い。二人はその男性に、自分たちの旅の目的と「夢」を語り、男性は「まちづくり」という自分の仕事を通して培ってきた金沢への「愛」を語り、そして自らが手がけた市内のレストランプロジェクトを一軒一軒、熱心に案内。その時に感じた三人の “Communion=深い共感“ は、ずっと忘れることのない鮮明なものでした。
「・・彼とはきっと再会する」。
その男性こそが、【kanazawa biiki project CASA】の三人目の主役となる、安久豊司(弊社社長)でした。
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1-3 ♦ Reunion in Rieti
金沢を愛する強い想いが、三人を再会させた。
マテオとシルビア・・なぜか気になるイタリア人カップルとの出会い。彼らと過ごした時間は安久にとっても印象深いものでしたが、かといってそれが金沢でのレストラン事業に発展するという実感には程遠いものでした。
「世界のどこかにレストランをつくったら、お祝いに行くよ」、安久はそう言って、金沢をあとにする二人を見送っています。ここであっさり終わってしまえば、それはありがちな話なのですが、このプロジェクトはいよいよここからが本格始動になります。
二人を見送って一ヵ月半ほどたったある日、 マテオとシルビアから安久のもとに思いがけないメールが届きます。
「旅行のあとイタリアに戻り、日本と金沢への思いが大きくなっている。・・もしも可能なら、金沢でのレストラン開業についての詳細を話し合い、ぜひともあなたのアドバイスをお願いしたい」
その文面は、安久にとって驚きであったのと同時に、運命に導かれるような感覚を呼び覚ますものでした。「これはきっと素晴らしいプロジェクトになる。本気で二人の力になろう」。安久は、ちょうど予定していた欧州出張と合わせて、2017年6月、二人が待つイタリア・リエティへと向かうことになりました。
日本人の感覚からすれば、すべてが幻想的でさえある美しい街・リエティ。ここでの再会がどれほど素晴らしく感動的であったかは想像に難くありません。
明るい光が降り注ぐ初夏のイタリア。丘陵を吹き抜ける爽やかな風を感じながら、三人は夢中になって今後のビジネスプランを語り合い、現地レストランを視察し、そしてマテオとシルビアが安久のために用意=プレゼンテーションした心を込めた食事会のテーブルを囲み、料理について、サービスについて、それにふさわしい新店舗の空間デザインについて、さまざまなアイデアとイメージを話し合いました。
再会の場所がイタリアであっても、この時に三人の心を結びつけていたのは「金沢を愛する強い想い」。言葉を超えた確かな共感が、【kanazawa biiki project CASA】の根幹を豊かに育てはじめていました。
その後、プロジェクトは2017年7月下旬のマテオとシルビアの再来日へとつづき、金沢での店舗物件の仮決定、参考にしたいレストランの詳細な視察、在留資格取得のための行政書士を交えた打ち合わせ、事業計画書の作成などへと進みますが・・さてここで、努力や情熱ではどうすることもできない困難に直面します。
「在留資格認定証明書交付申請」を当局に提出したものの、いつまで待ってもナシノツブテ。 結果としてこの困難は、およそ5ヵ月もの “空白期間” を生んでしまうことになりました。
左から、マテオ、シルビア、現地シェフ(友人)、安久。
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1-4 ♦ Overcome the challenge
思わぬ困難を乗り越えて、希望の2018年へ。
もしも万一、マテオとシルビアの在留資格が取得できないとなれば、プロジェクトはここで強制終了・・という最悪の事態になってしまいます。
“空白期間” となった5ヵ月ものあいだ、マテオとシルビアそして安久にできることは、メールでお互いを励まし合い、進展のない状況にも希望を失わずに事業計画を精査してゆくこと、そして返答のあいまいな当局への問い合わせを辛抱強く繰り返すばかりでした。
そして、ついに、在留資格を「認定」されたのが、2017年12月4日。
「マテオさん シルビアさん 桜咲く。おめでとう。この先もまだまだ山あり谷ありでしょうが、一緒に乗り越えていきましょう!まずはひと安心。安久豊司」
喜びの第一報、安久から二人に宛てたメールは、とてもシンプルな文面でありつつも、このプロジェクトの進行を見守ってきた多くの友人や関係者にはとても感動的なものでした。
知らせを受けたマテオとシルビアは、すぐさま渡航手続きを行い、2017年12月17日、希望に胸を弾ませて、いよいよ「わが街・金沢」へ。その日の金沢は近年には珍しい大雪が降り積もり、白く輝く雪化粧で二人を迎えました。
到着して、ほっと一息つく暇もなく、二人と安久には「やるべきこと」が怒濤のように押し寄せてきます。
まずは住民票移転届け(受理された2017年12月18日、二人は晴れて金沢市民に!)、つづいて印鑑証明登録、銀行口座の開設(ハンコ文化に始めて触れる二人)、そして新会社設立などの手続きだけでもたいへんなのに、その上で、新店舗の内装、外装、厨房設備、備品などの詳細を次々に決定して、専門業者さんに見積もりを依頼し、コストと機能性とデザイン面の検討を重ね、それに加えてもっとも大切な「新店舗のレストランコンセプト」をさらに明快で強いものに練り上げてゆくための白熱したミーティングが深夜と早朝を問わずに行われました。
そして気がつけば2017年も、残すところあと僅か。新店舗の本格的な工事開始は年明けからになりますが、今できることにベストを尽くし、明るい笑顔を金沢に残して、マテオとシルビアはいったん帰国の途につきました。
さてここで、いよいよ公表できる【kanazawa biiki project CASA】の計画地は、金沢駅前「別院通り」のちょうど中ほどの路面店舗。この場所、この物件がいよいよ大きく変貌して、街に新たな賑わいを創ろうとしています。
「小さくても世界の中で独自の輝きを放つ街、KANAZAWA」。その象徴のひとつとなるようなお店づくりを、私たちは進めて行きます。
>> chapter 2 につづく
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【Kanazawa biiki project CASA】Main member's profile
マテオ・アルベルティ Matteo Alberti/ food manager
1982年、イタリア・リエティ生まれ。イタリアの伝統的な「食文化」を大切にする家庭に育ち、とくに母親がつくる愛情たっぷりの家庭料理を通して、少年の頃から「料理することの面白さ=人を幸せにする力」に魅了される。その後、芸術にも感心が強いマテオはアートスクールに通い、グラフィックデザイナーの道を志すが、25歳でロンドンに渡り、高級デパートHarrod's 系列のレストラン「Caviar House & Prunier」においてシェフアシスタントを務めたことで、人生の目標が定まる。「自分が本当にやりたいことは料理をクリエイションすることだ!」。そして厳しい修業時代、フルタイムで働きながらも料理学校に通い、自らの感性と技術を磨き上げた後、「City Inn Hotel restaurant/london」にてシェフに就任。のちに、JPモルガン、MS Amlinなど一流企業のエグゼクティブのためのプライベートシェフを務める。英国における職業技能国家認定を取得。
シルビア・ヌッチ Silvia Nucci/ service manager
1982年、イタリア・リエティ生まれ。実家が経営するB&Bのお手伝いを通して世界から訪れるお客様に接し、自然なかたちで「サービスとコミュニケーションの能力=人に喜ばれることの喜び」を見出すようになる。主な職歴は、「London Heathrow Airport」でのパッセンジャーサービススタッフ、「Kuoni Travel/london」にてホテル予約スタッフ、のちにセールスエグゼクティブに昇格。天性の素養を存分に活かしながらプロフェッショナルなホスピタリティを豊富な現場経験によって身に付けている。 観光マーケティングの国際的なコミュニケーションスキルを認定する学位を取得。
安久豊司 Toyoshi Agu/ project manager
1965年生まれ、京都府出身。キャンパスがお城の中にあった頃の金沢大学に通い、大学院修了後「東京建物株式会社」入社。東京、札幌での都市開発事業、金沢の老舗建設会社での宅地開発・住宅事業等を経験したのち、2001年2月1日(21世紀の幕開けにふさわしい日付のこの日)金沢での独立起業・移住を決意。現在、株式会社 金澤まちづくり公社、および株式会社 建築プロデュース研究所の代表取締役プロデューサー、共創実践型経営コンサルタント。「小さくても世界の中で独自の輝きを放つ街・金沢」を、さらに美しく粋な街にするために【金澤美粋プロジェクト】を推進し、金沢の町家美を再現した日本料理店、蔵を改装した割烹、各種レストラン、バールやカフェ、茶の湯サロン、歯科医院開設のプロデュース等を手がけている。一級建築士、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー、プロジェクトマネージャ他、資格保有。
金沢、安久のオフィスで打ち合わせする三人(2017年12月)
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text by KANAZAWA BIIKI project 2017